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受信料制度改正は僅差で可決、着床前診断も国民から支持

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連邦議会で議論するドリス・ロイトハルト環境・交通・エネルギー・通信相。公共放送受信料制度改正案は僅差で可決された Keystone

スイスでは14日、4つの案件について国民の賛否を問う国民投票が行われた。世論調査でも、開票が始まってからも予測がつかず、最後まで注目された公共放送受信料に関する法改正案は賛成50.1%、反対49.9%の僅差で可決された。憲法改正が必要なため自動的に国民投票にかけられた、着床前診断をめぐる憲法改正案も可決。一方、奨学金、相続税に関するイニシアチブ(国民発議)は、全ての州で反対票が上回り否決された。

時代に合った受信料制度へと改正

 今回の国民投票で最も激しく議論が繰り返され、2度にわたる世論調査でも最後まで予測のつかなかったのが、スイスの公共放送受信料制度改正案だ。

 これまで、テレビやラジオの受信機のない世帯や企業には受信料の支払いが免除されてきた。だが連邦政府は、パソコンやタブレット端末、スマートフォンなどで番組の視聴が可能になった今、インターネットの存在しない時代に制定されたこの受信料制度は時代に合わないとし、受信機の有無にかかわらず受信料の支払いを義務付ける改正案を提案。昨年9月に連邦議会の承認を得た。

 法案は、老齢・障害保険受給者や低所得世帯、年間売上が50万フラン(約6200万円)以下の企業などを除く、全ての世帯と企業から受信料を徴収するというもので、政府は、徴収対象者が増えるため一世帯の受信料負担額が年間462フランから約400フランに下がる可能性があると見ていた。

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 だがこれに反対したスイス商工業連盟(SGV)が、必要数の署名を集め法案を国民投票(レファレンダム)にかけることに成功。SGVは、小企業でも年間売上が50万フラン以上の経営者は、家庭でも会社でも受信料を二重に支払うことになるとして反対した。また受信料額の決定権が連邦政府に留まることから、受信料が安くなるのは一時的なもので、将来は徐々に値上げされると予測。国民に反対を呼びかけていた。

 投票結果は、賛成50.1%、反対49.9%で、賛成票がわずか3696票上回るという僅差での可決となった。投票結果には言語圏の差が大きく現れ、ドイツ語圏ではグラウビュンデン州とバーゼル・シュタット準州を除く全ての州で反対過半数、フランス語圏ではドイツ語圏にまたがるヴァレー/ヴァリス州を除く全ての州で賛成過半数となった。

不妊や遺伝性疾患のカップルに希望の光

 着床前診断のための憲法改正案は、2週間前の世論調査では賛成派がわずかに上回ったものの、生殖医療をめぐる問題は倫理・道徳的にも慎重さを要し、感情に訴えるテーマでもあるため意見を決めかねる有権者も多かった。だが、投票結果は賛成61.9%、反対38.1%で、明確な差をつけて国民は着床前診断を支持した。

 多くの近隣諸国で認められている着床前診断だが、スイスでは法律で禁止されている。連邦政府は、重篤な遺伝性疾患を持つカップルや自然妊娠の望めないカップルにも、より安全に子どもを持つ権利を与えるべきだとし、2013年6月、着床前診断を認める改正法案を成立させた。だがこれには生殖医療を規定する連邦憲法第119条の改定が必要なため、今回の国民投票となった。

 着床前診断とは、体外受精した受精卵を母親の子宮に戻す前に、受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかを調べる医療行為。これにより、重篤な遺伝疾患を持つカップルは、妊娠成立前に当該遺伝子に異常のない受精卵を選び出すことができるため、妊娠してから異常が分かった場合の中絶という重い決断を避けることができる。また自然妊娠の望めないカップルは、着床の可能性の高い受精卵の選別が可能になる。

 政府が着床の確率や母子の安全性が高まると訴える一方で、障害者支援団体などからは、命の選別につながる恐れがあり、障害者がますます生きにくい社会になりかねないとして反対の声が上がっていた。

 今回の可決を受け、政府は連邦議会両院ですでに承認済みの法律案を公布する。だが体外受精で培養できる受精卵の数を現在の3個から最大12個まで増やし、受精卵の凍結保存を認めるなどとする内容が、「寛大過ぎて、行き過ぎだ」とする福音国民党は即座に、もう一度国民投票を提起すると表明した。これが成立すれば、着床前診断をどの程度まで許容するかについて再び国民の賛否が問われることになる。

奨学金、相続税イニシアチブは否決

 一方、現在州ごとに異なる奨学金制度の管轄を連邦に移行し、全国で統一するよう求めたイニシアチブ(国民発議)と、高額相続・贈与に新たに連邦レベルの相続税を課すことで富の再分配と年金制度の財源確保を提案したイニシアチブは、全ての州で反対票が上回り、否決された。

 スイスでは、大学生を対象にした奨学金制度は州の管轄で、給付額は大学の立地州ではなく親の住む州によって決定される。同じ大学に通っていても、チューリヒ州出身の学生は国内で最高の平均7500フラン、ヌーシャテル州出身の学生には最低の平均3千フランが1年間に給付される。それが、教育の機会均等に反すると主張するスイス学生組合がイニシアチブを提起していた。

 これに対し連邦政府は、生活保護や児童手当など他の社会福祉制度と同様に奨学金制度も、各家庭の状況によりきめ細かく対応できる州の管轄であるべきだと主張してきた。投票結果は賛成27.5%、反対72.5%で、全ての州で反対過半数となり、否決された。

 イニシアチブを提起したスイス学生組合で委員を務めるイヴァン・オーダス・クリアドさんは、中間発表ですでに反対が7割に達し否決が確実になった際、「残念な投票結果だが、このイニシアチブにより現在複数の州が進める奨学金制度の統一計画が促進されると信じており、無駄ではなかった」と話している。

 また、左派の立ち上げた相続税イニシアチブは、相続・贈与税の管轄を州から連邦へと移行し、200万フラン(約2億6千万円)以上の高額遺産相続に課税するというもので、年間30億フランに上ると試算された新相続税による税収は、3分の2が老齢・遺族年金基金(AHV/AVS)に、残る3分の1は州に配分される予定だったが、賛成29%、反対71%で否決された。

 連邦政府は、相続税の管理が連邦へ移るのは州統治権の侵害に当たると同時に、州間の税率引き下げ競争が弱まるとして反対し、また中道派や右派は家族経営の企業には税負担が増大し、その存続が危ぶまれるとして反対していた。

 なお、奨学金と相続税に関する二つのイニシアチブも憲法改正にあたるため、強制的レファレンダムと同様に州と有権者の過半数の賛成が必要だった。

 今回の投票率は、平均43.6%だった。 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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