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アート・バーゼル、クラウドファンディングで若いアーティストを支援

中国の芸術家艾未未(アイウェイウェイ)のインスタレーション「Stacked」(2012年)。中国で最も使用されている「フォーエバー」ブランドの象徴的な自転車760台を使ったインスタレーションだ AFP

世界最大の現代アートフェア、第46回アート・バーゼルが今日開幕する。アート・バーゼルは、グローバル化したアート市場にどう対応しているのか。また、アート市場には属さないプロジェクトを育成するクラウドファンディング・イニシアチブに、なぜ着手したのか。ディレクターのマーク・シュピーグラー氏に聞いた。

swissinfo.ch: アート・バーゼルのディレクターを務められて8年になります。その間にアート界で最も大きく変化したのは何でしょう?

マーク・シュピーグラー: 私がアート・バーゼルにたずさわってきた間に、アート界は驚くほどグローバル化した。アーティストやギャラリー、コレクターは世界中を渡り歩き、お互いに関わり合って、異なった芸術の場や美術の歴史について学び合っている。

swissinfo.ch: アート・バーゼルはその変化にどう取り組んでいますか?

シュピーグラー: アート・バーゼルもグローバル化した。ヨーロッパ、アメリカ、アジアとアジア太平洋をまたにかけ、三つの大陸でアートフェアを開催し、世界中の重要なアート市場を基点に、経験のあるチームを育成することができた。同時に、開催地域の特性を生かすような取り組みを行うように注意した。

バーゼルの展覧会では、出展者の半分以上がヨーロッパ出身。だがアート・バーゼル・マイアミビーチでは南北アメリカ大陸の出展者が半分を占め、開催都市の雰囲気とプログラムの内容により、はっきりとラテン系ムードが漂うものになった。香港では、出展者の半数がアジアやアジア太平洋地域にギャラリーを持っている。

グローバル化するアートの世界におけるアート・バーゼルの役割は、人々がその新しい環境の中をうまく渡り歩けるよう手助けすること、ギャラリーとコレクター、それから東西の橋渡しをすることだ。また、アート市場が発展し始めたばかりのアジアで、小さな橋をかけていくことでもある。

アート・バーゼルとキックスターター

 

アート・バーゼルは2014年9月、資金調達の困難な非営利のアート団体を支援する目的で、クラウドファンディング・イニシアチブを始めた。インディペンデント・キュレーターたちによって選ばれたプロジェクトには、カタログ制作や地域に固有なアート展、居住型のアート制作、パフォーマンスなど多岐にわたるものがある。その多くが調達された資金で制作に成功している。

 

だが一方で、これまで新鋭アートを支援してきた、野心的な小規模のアートギャラリーを市場からはじき出してしまう側面もある。実際に、小さなギャラリーは、増え続けるアートフェアとの競争に太刀打ちできないと感じている。

swissinfo.ch: 今やアートはオンラインで売買され、ネットでの売上が20%増に上ると報告する美術品競売会社もあります。これは、脅威でしょうか、それとも新たなチャンスと見るべきでしょうか?

シュピーグラー: アーティストやギャラリーにとっては、デジタルな世界は作品やプログラムを宣伝するための絶好の場になる。市場のプラットフォームにもなり得る。だが、デジタルな世界が持つ潜在的な可能性を、どのようにフルに実現させることができるかは、まだ分かっていない。アートの世界では、買い手と売り手の人間関係がきわめて重要だからだ。

swissinfo.ch: アート・バーゼルがクラウドファンディング・イニシアチブに着手したのは何故ですか?

シュピーグラー: クラウドファンディングは、アート・バーゼルが持つ活力の一部を非営利セクターに注ごうという意図で、2年前に始まった。非営利セクターは、アート界の将来のカギを握るものだ。しかし、このセクターでは資金を調達できずに苦労しているところが多い。

またここでは、最新鋭のアートや誕生したばかりのアーティストが長く活動を続けられるようサポートしていく必要がある。クラウドファンディングは、世界中のアートの観客が、世界中の注目すべきアートプロジェクトを直接支援できる、貴重なチャンスだ。

アート・バーゼル・クラウドファンディング・イニシアチブの支援を受けて、ミャンマーの芸術資料センターMARCAはミャンマーの現代アートに関する本を英語に翻訳し、これまで検閲を受けてきたビルマの芸術を紹介する章を追加する kickstarter.com

swissinfo.ch: インターネットはコレクターに、より大きな可能性を与えますが、アーティストにとっても同様だと話されました。どういう意味でしょうか?

シュピーグラー: インターネットは、アーティストに関する情報を世界中に発信できる場だ。今日、あるアーティストの作品を鑑賞するのはもはや、地元やその地域の人に限られていない。アートは、ネットを通し、国境を超えて瞬時に広まるものだからだ。

2007年からアート・バーゼルのディレクターを務めるマーク・シュピーグラー氏 artbasel.com

swissinfo.ch: アート・バーゼルは、今では「動くイメージ」のアートとしてのフィルム作品を、早くも1999年に取り入れました。中には、インターネットで作られたり、インターネットのために作られたりしたものもあります。このジャンルのアートの需要はありますか?

シュピーグラー: すでに、「デジタルネイティブな」アーティストの作品に対して高い関心や需要がある。そのようなアーティストの全てがインターネットを使って作品を作っているわけではない。しかし彼らはインターネットから影響を受けていて、その考え方や、世界や芸術に対するアプローチの仕方に、それが表れている。

昨年12月のアート・バーゼル・マイアミビーチで紹介された、ライアン・マクナマラは良い例だ。彼の作品「MEEM 4 マイアミ」は、何層にも重なるインターネットの構造と、ラップトップやスマートフォンから際限なく流れ込む情報を「解釈する」一つのパフォーマンス(またはバレエ)なのだ。

swissinfo.ch: テクノロジーの発達がもたらす可能性に大きな期待を寄せていらっしゃるように見えます。

シュピーグラー: (テクノロジーは)今では私たちの生活の一部。テクノロジーとともに育っていない人にとっても同様だ。テクノロジーに不安を持ったり、恐れたりする人もいるが、私は個人的に、それは新しいタイプの交流の仕方を提供する大きなチャンスだと受け止めている。

アート・バーゼル2015、最高傑作がハイライト

 

今年のアート・バーゼルでは、一流のギャラリーに1900~1970年代の現代美術の最高傑作の出展が求められている。このテーマは、雑然としたアート・バーゼルよりも、アートとアンティークの祭典「TEFAFマーストリヒト」(オランダ)を好むような目利きや専門家には大いに歓迎されることだろう。だが一方で、美術館に展示されてもおかしくないような最高級の作品が、なぜいまだに個人の所有なのか、いつしか美術館はそれらを手に入れることができるのか、といった疑問も残る。

 

今年も、マグリットやマックス・エルンスト、マルク・シャガール、ヘンリー・ムーア、ジョアン・ミロ、マーク・ロスコ、パブロ・ピカソなど、競売やアートフェアの開催中にのみ公衆の前に現れて、それが終わればまた違う所有者の金庫にしまわれてしまうような、数々の巨匠の作品が売買されることだろう。

(英語からの翻訳・編集 由比かおり)

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