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天皇陛下の退位 スイス各紙はどう報じたか?

天皇陛下
30日、退位の儀式に臨まれる天皇陛下 Keystone / Jiji Press

天皇陛下(85)が30日をもって退位される。30年余にわたる「平成」が終わり、1日からは「令和」の時代が始まる。光格天皇以来202年ぶりの退位を、スイス各紙はどう報じたのだろうか。

「歴代天皇の誰よりも、国民の身近な存在だった」。チューリヒの週刊ニュース雑誌「シュヴァイツァー・イラストリールテ外部リンク」(27日付)は、天皇陛下の人となりをこう表現した。2016年に生前退位の意向を表明された天皇陛下のお言葉や、オンライン版では美智子皇后(84)との結婚式の動画も紹介。皇室一家の写真も数多く掲載し、これまで天皇陛下が歩んでこられた道のりを詳しくつづった。

同誌は「『現人神でなくなった初めての天皇』として、美智子さまと一緒に自然災害の被害者を勇気づけ、老人ホームや障害者施設を回るなど、国民に尽くし続けた」と報じた。さらに精力的に公務を行われた点にも触れ「威厳ある国の象徴」を姿で示したと振り返った。

同誌はまた、「明仁天皇は父親の昭和天皇とは対照的に、平和主義を大切にしていた」ことも触れた。

ブッシュ元大統領にストレート勝ち

同誌は、天皇陛下の横顔を紹介するエピソードの一つに、「パパ・ブッシュ」の愛称で知られる故ジョージ・H・W・ブッシュ米元大統領との「テニス対決」を挙げた。

試合は皇室のコートで行われ「明仁天皇が6-3、6-3でストレート勝ち。アメリカに勝ち目はなかった。大統領が礼儀を尽くしてわざと負けたのかどうかはわからないが」と振り返った。

安倍政権の右傾化を食い止める役

安倍政権に対する天皇陛下の間接的な「政治的影響力」に注目したのは、独語圏のリベラル紙「ターゲス・アンツァイガー外部リンク」(29日付)だ。

同紙は天皇陛下が「その穏やかな性質を持って、被災者を何度も訪問することで、明仁天皇と美智子皇后は皇室の人気を高める立役者になった。それは君主制に批判的な人々にも波及した」と指摘。「一部の日本人は、安倍晋三首相の右傾化を修正する役割のようなものを天皇に見ていた。新天皇にも、そうなってほしいと望んでいる。きっと皇室の近代化も求めているのではないか」と報じた。

スイス在住の日本人は何を思う?

ドイツ語圏のスイス公共放送外部リンク(SRF)は、スイス在住の日本人たちの声を紹介した。

夫と子供とチューリヒに住むデザイナー、フグラー・カズさんは「自分は昭和生まれだが、年号が平成に代わったときのことをよく覚えている。当時は東京で芸術史を勉強していた」と振り返る。

それとは対照的に、チューリヒで美容師をしている平野さとしさんにとっては、天皇交代は形式的なものに過ぎないという。「アメリカを経てスイスに来て26年。天皇交代で感じるのは、自分が古い世代に属しているんだということくらい。西欧諸国に長く身を置きすぎたのかもしれない」とSRFに話した。

チューリヒ州に住む旅行ガイドのミキ・ハラーさんは、元号の数字が1に巻き戻されることについて、こう話した。「夫から、元号が変わるのはリセットみたいなものではないの?と聞かれる。私にとって、それは時間が後戻りするのではなくて、喜びと希望を胸に新しい時代を迎えることを意味する」

新天皇への期待

ドイツ語圏の地域紙アールガウアー・ツァイトゥング外部リンクは「魅力、素晴らしさ、そして秘密―日出ずる国の天皇交代」と題した記事の中で、退位の儀式がどのように行われるか、皇室がどのような衣装を着るかなどについて、詳しく紹介。「不思議なのは、この儀式の皇室の女性メンバーの参加が許されていないこと」と付け加えた。

同紙は「明仁天皇は30年の治世で、多くのものを近代化した。だが、世界で最も古い世襲君主制は時代遅れだ」と指摘。新天皇について「父親の軌跡をたどって終わりにはしないと約束した。彼は『皇室を時代の変化に適応させる』ことを目指している」と報じた。

その一方で「伝統主義者たちは、彼の父親は行き過ぎだとみなしている。彼らは、天皇の任務は神秘的な神道の儀式に満ちた世界の中で、国の平和と幸福を祈ることだと主張している」との見方も紹介した。

スイスとのつながり

明仁天皇、そして皇太子さまはそれぞれ過去にスイスを訪問していた。

明仁天皇は1953年、皇太子としての初の外遊で欧州を訪問。スイスではユングフラウヨッホに足を運び、犬ぞりを楽しまれた。2000年には美智子皇后とプライベートでジュネーブを訪問された。スイスインフォは2016年、当時の貴重な写真をまとめた記事を掲載した。

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皇太子さまは日本とスイスの国交が150周年を迎えた2014年、スイスのディディエ・ブルカルテール大統領が出身地のヌーシャテルで開いた公式レセプションに出席した。

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スイスのブルカルテール大統領、皇太子さまを故郷に迎える

このコンテンツが公開されたのは、 スイスのディディエ・ブルカルテール大統領は19日、皇太子さまを故郷のヌーシャテル市に迎え公式のレセプションを開催した。場所は、緑が輝くフランス風庭園のある瀟洒(しょうしゃ)な別荘風レストラン。ブルカルテール氏と皇太子さまは記者会見で、両国がともに尊重する価値「繁栄、安全、平和」のためにさらに絆を強め、両国の友情を深めていくことを確認し合った。  ブルカルテール氏は、皇太子さまと出会うのは今年これで2回目だとスピーチを始めた。2月に日本・スイス国交樹立150周年を記念して日本を公式訪問した際、天皇、皇后両陛下をはじめ皇太子さまに迎えられ素晴らしい時間を過ごしたという。「そのお返しにスイスに来ていただき、しかも私の故郷にこうしてお招き出来て感無量だ」と語った。

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「支えてくれた国民に感謝」

天皇陛下は30日、「即位から30年、これまでの天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは、幸せなことでした。象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に、心から感謝します。明日から始まる新しい令和の時代が、平和で実り多くあることを、皇后と共に心から願い、ここに我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります」とのお言葉外部リンクを述べられた。退位の儀式のようすは一部、スイス公共放送局でも放送された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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