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1年で最も輝く3日間 ~ スイス最大のカーニバル@バーゼル

バンド演奏は、太鼓・サックス・ホルン・クラリネット・ピッコロなどなど… swissinfo.ch

バーゼルのファスナハト(ドイツ語で、カーニバルの意)は、3日3晩かけて行われます。仮装パレードが行われる午後、街の中心部は車両通行止めとなり、多くの店は閉まっているものの、カラフルな紙ふぶきと奇抜なお面のディスプレイが。観光客の姿も多く、ふだんとはまったく様子が異なります。

中はクッションが施してあり、快適に装着できるようになっている・・・が、かなり重労働なはず swissinfo.ch

仮装パレードは、大きいものだと100人単位。各グループごとに、たいてい統一された衣装を着て、にぎやかなバンド演奏を先頭に行進してきます。大グループは指揮者が引き連れていますが、その指揮者からして身長2メートル以上の巨人(首に開いた穴から人の顔が見える)だったり!

 その仮装、ちょっと不思議な妖怪のような悪魔のような人物が多く見られますが、それらはバーゼルの伝統的な仮装。もっとも人気があるのは「ヴァッギス」、ふさふさの髪の毛に大きな鼻の仮装です。木の靴をはいて街を闊歩するヴァッギスは、もとはフランス農民の服装だったそう。

 しかし鼻の穴からやっと外が見えるくらいの立派なお面は、楽器の演奏には向いていません。彼らはもっぱら観衆に向かってビラを配り、飴やグミをプレゼントし、オレンジやじゃがいもを投げます。そして「ブラゲッテ」という、ファスナハトのバッジをつけていない人には、大量の紙ふぶきをお見舞いするのです。

巨大な山車の上から配る、ニンジン、じゃがいも、ねぎ、そしてミモザやバラの花 swissinfo.ch

 ブラゲッテは、無料イベントであるファスナハトにとっては貴重な資金源。仮装者たちはそれを目印に、つけている人には花を、つけていない人にはどっさり紙ふぶきを、というのが基本ルールです。

 しかし実際には、ブラゲッテの有無と関係なく、紙ふぶきの被害によく遭う人と遭わない人がいるのも事実。私の見た限り、どうも若い女性が標的になることが若干多いようです。それが美しいブロンドヘアだったりすると、確率はより高くなるような。

  そんな「ヴァッギス」のほかにも、「アルテタンテ」(ドレスを着たおばさま)、「ブレッツリバイヤス」(カラフルなピエロ)などの伝統的仮装、そして兵隊、ドラゴン、鬼、ブタ、囚人、エンピツ、信号、ドラキュラ、煙突、人の指まで……毎回毎回、なんとも自由な発想に感心してしまいます。

ビーダーマイヤー様式のドレスと装飾品を身につけた、優雅なご婦人たち swissinfo.ch

 仮装者たちはスイス人らしからぬノリで、高い山車の上から標的を定め、じゃがいもを次々と投げてきたり、飴をくれるふりをして紙ふぶきを浴びせたり。観客も、知らず知らずのうちに引き込まれてしまうお祭りといえるでしょう。

 また、仮装している者なら誰も、紙ふぶきを撒いていいというルールがあります。観光客でも飛び入り参加でこのいたずらの仲間入りができるわけです。紙ふぶきはスーパーで、1袋2フランほどで売っています。何色かそろえてカラフルにすれば、ハラハラ舞う様子がこのお祭りの華やかさにぴったり!

 しかし、もともとパレードは、国内外の時事問題について取り上げ、グループごとにメッセージを観衆に向かって訴えるものです。たいていカラフルな長い紙に印刷された、見慣れない不思議な言葉で書かれたビラを配っています。実はこれはバーゼル方言、つまり表記法のない話し言葉を使って自由に書いたもの。 

 この韻を踏んだ詩のようなメッセージは、「安全な原発などない」「オバマは自意識過剰」「ユーロに負けないスイスフラン」などの政治経済から、肉食主義者の逆襲、サッカー選手の批評、地元バーゼルの問題まで。必ずウイットを利かせています。メッセージをいかにして仮装に込め、観衆に伝えるかが腕の見せどころなのです。

 一連の銃撃事件を受けて、今年はムハンマドの風刺画を回避しようと、ファスナハト実行委員長より呼びかけられました。あの群集と混乱を考えると、3日間を無事に終えたことは奇跡的といえるでしょう。

 とはいえ、たとえバーゼル方言が理解できなくても、次から次へと趣向を変えて現れる仮装行列に、観客は目を奪われ、退屈することがありません。

 寒空の下で楽しんだ後は、レストランでバーゼル名物の「メールスッペ」を味わうのが定番です。ローストした小麦粉がベースのポタージュスープは、パレード見物で冷え切った体を温めるのに最適。ほかに「ツヴィーベルヴェーエ」という玉ねぎパイも、こってりしていてカロリー補給に効果的です。

 店内では、シュニッツェルバンクと呼ばれる、ウクレレ漫談のような歌を仮装者が披露しています。実は楽しい人たちだったんだと、スイス人に対するイメージが変わるに違いありません!

彼らが歌う横では、テーマが絵で示されているので、今だいたい何について歌っているのかはわかる swissinfo.ch

平川郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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