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マイ ワンダフル イタリアン ボーイフレンズ

菜園 swissinfo.ch

週に2回必ず会いに行くイタリア人達がいる。彼らの共通点は、野菜作りの名人であること。安全で美味しい野菜が食べたくて、自宅の庭で自然栽培を試してみたものの見事に失敗した私は、それなら他力本願、彼らが共同 家庭菜園で作っている野菜を売ってもらおうと思いついた。

 ある日勇気を振り絞って私は尋ねた。「ボンジュール、ムッシュウ、育てていらっしゃる野菜を分けて頂けますか?」。小柄で人の良さそうなムッシュウの答えは、その外見に反して冷たかった。「売りません」。キッパリ、ハッキリ、とりつく島もない。

ブラックベリー swissinfo.ch

 「え〜っと、あの、じゃぁ、売ってもいいなぁって思ってらっしゃる方ご存知ありませんか?」。「ノン!」。しょげかえる私を前に彼はしばし考えて言った。「明日2時にここに来られますか?」。「はぁ?」。「豆の収穫をするんですよ。手伝って下さったらその半分を差し上げます」。私は元気よく答えた。「ハイ、必ず来ます!」

マルチェロ swissinfo.ch

 こうして私の家庭菜園場通いが始まった。菜園の借主は何故かほとんどが定年退職したイタリア人だ。前述のムッシュウが マルチェロ。隣はジョバンニ。そのむこうはサントス。

ジョバンニ swissinfo.ch

 私は週に2回、2時間ほどマルチェロの畑仕事を手伝う。何をやらしてもおおざっぱな私だが、イタリア基準では丁寧に見えるらしく、マルチェロはいつも 私の仕事を大げさに褒めてくれる。

サントス swissinfo.ch
 

 夕方にはお隣さん達とビールやワインでアペリティフをする。 そして野菜や果物を自転車に山積みにして帰途につくのだ。気持ちよくて楽しくて、美味しいものをいただける菜園通いは、今や私に取ってかけがえのない生活の一部になった。

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 スイス人と親しくなるのは難しい 。 それがどうだろう、菜園のイタリア人達とは、わずか数日間で互いに心許す間柄になれた。1960年代に移民労働者としてスイスにやって来て以来、苦労を重ねてきた彼らの心は菜園の頭上に広がる空のように広い。

シチリア・ズッキーニ swissinfo.ch
シュシュ、可愛い子と呼ばれるズッキーニ) swissinfo.ch

 一見フツーのおじさん達だが、彼らには 誠実に善く生きてきた人だけが持つしなやかな強さがある。だから他者に寛容で優しい。助け合うこと、いたわり合うことが人間にとってどれほど大切か、それを知っているだけでなく毎日実践している。

菜園の恵み swissinfo.ch

 ビストロで老後の時間を無為に過ごす仲間が多い中、彼らは土と働くことを選んだ。来る日も来る日も朝から晩まで。そして、丹精して育てた野菜や果物を家族や友人に惜しみなく提供する。週末には家族や友人を招いて菜園で賑やかな昼食会を開く。

新ジャガサラダ swissinfo.ch
ズッキーニサラダ swissinfo.ch

  働き続け、与え続けることが彼らの幸せなのだ。子供達はおじぃちゃんが作る本物の野菜や果物の味を忘れないだろう。お金では決して買えない大切なものがこの世には多くあることを学んでくれるだろう。私が遅まきながらそうしているように。

麓絵里(ふもとえり)

大阪生まれ、奈良育ち。1990年よりスイス在住。証券会社、新聞社、製薬会社勤務を経て現在、創造性や生涯学習コミュニティーを育てるコーチ、ファシリテーター。コーチング・メンタリング修士(Oxford Brookes University)、英国Time to Think 社 公認コーチ・ファシリテーター、 PMP (Project Management Professional)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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