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スイスの美味しいチーズを食べよう – 田舎で楽しむチーズ事情

ホテルの朝食にもチーズはつきもの。どれも美味しそう swissinfo.ch

ごく一般の日本人にとって、スイスと言ったらチーズ、チーズといったらスイスを思い出すくらい、この2つは強いイメージで結びついている。実際にスイスには驚くほど沢山の種類のチーズがあって、実によく食べられている。今日は、私の生活の中で見かけるチーズと、地元の乳製品にこだわる小さな専門店について書いてみたいと思う。

 日本にいる多くの友人たちにとっては、アニメ「アルプスの少女ハイジ」の1シーンに使われた暖炉で溶かしてパンに載せて食べるチーズのイメージが強烈で、半ば冗談だろうが「いつもああやって食べているの?」と質問されることがよくある。

大好きなチーズの数々。つい買いすぎてしまう swissinfo.ch

 答えはイエスでもあるし、ノーでもある。というのは、スイス(だけでなくヨーロッパの多くの国)では、チーズは必要不可欠に近い食べ物で、「パンとチーズだけ」の食卓も決して誇張ではないからだ。実際に「何もないけれど食べていく?」と訊かれて、本当にパンとチーズとワインだけだったことが何度もある。

 とはいえ、チーズをいつも暖炉で溶かしているわけではない。確かにごく一般によく食べられるチーズはナチュラルチーズなので、どれも熱を加えれば溶ける。が、ラクレットチーズなどの例外を除いて、手を加えずにそのまま食べることが多い。昼にしか料理をしない家庭も多いので、そのまま簡単に食べられるチーズが朝食や夕食によく登場することになる。

 初めてスイスに来た日本人はスーパーマーケットのチーズ売場の広さに驚くはずだ。しかも、その大量のチーズのうち、おそらく7割はスイス製だ。それも地元のチーズの割合が大きい。その分、他の国のチーズはかなり有名なものでも大きい店でないと手に入らない。あのチェダーチーズですら、去年までは州都に行かないと買えなかったぐらいなのだ。

 日本でよくみかけるスイス産のものはグリュイエール・チーズとエメンタール・チーズぐらいだから、私も初めはこれほど沢山の種類があることに驚いた。

さまざまなチーズの並ぶスーパーマーケットの売場 swissinfo.ch

 同じスイスでも、例えばフランス語圏の人たちは、カマンベールのようなソフトタイプのチーズを好むように思う。イタリア語圏の人たちは、パルミジアーノ・レッジャーノなどイタリアで好まれるチーズを重視している。私が住むグラウビュンデン州ドイツ語圏には、ハードタイプまたはセミハードタイプのチーズが多い。

 田舎なので酪農家もしくは身内に酪農家がいるという人が多く、手みやげにチーズをもらうことも多い。こういうチーズにはグリュイエールやエメンタールといった特定の名前はなく、単に「山のチーズ(Bergkäse)」と呼ばれている。

 来客をもてなすときには、チーズ・フォンデュやラクレットなどチーズがメインの料理を出すことが多い。そういう時に私が買い物をするのは乳製品専門店「モルキー・トゥージス(Molki Thusis)」だ。同じチーズ・フォンデュでも、どのチーズをどの割合で使うかで味がまったく違ってくるのだが、専門店では、その場で好みに応じてミックスしてくれる。

乳製品専門店 モルキー・トゥージス。チーズを彷彿とさせる黄色い外観 swissinfo.ch

 店主のクンフェルマンさんは、5年ほど日本に住んだことがあるという親日家。有機農法で作られた地元の乳製品を中心に、チェーン店にはできない作り手の見える店づくりをしている。クンフェルマンさんに、何か特別な地元の商品はないかと訊いたところ、面白いものを薦めてくれた。

モルキー・トゥージスで売っているオリジナルツィガー。緑灰色の方は山羊のツィガーでくせがある swissinfo.ch
スイス初のブランド製品シャプツィガー。どのスーパーマーケットでも買うことができる swissinfo.ch

 この店で売っているツィガー(Ziger)という乳製品がある。名前の響きが似ているのでずっと山羊のチーズ(Ziegenkäse)と思っていたのだが、これは牛乳から作られる一種のカッテージチーズだ。山羊のチーズは匂いが強く苦手で避けていたので、まったく別物だということにずっと気づいていなかった。

 一般に言うチーズはレンネットという仔牛の胃袋から抽出した酵素を加えて作る。また、チーズは時間とともに熟成して味や香りが変わっていく。ツィガーはレンネットを使っていないので、チーズ独特の香りはなく熟成が進むこともない。その分、レンネットを使ったチーズほどは長持ちしない。新鮮なうちに食べる必要がある。

 ツィガーの歴史も他のチーズに劣らず古い。グラールスの修道院で伝統的に作られていた薬草をまぶしたシャプツィガー(Schabziger)は、8世紀からの歴史がある。1463年に製造元を明示する法律が制定されて、スイス初のブランド品となった名誉ある製品だ。

 クンフェルマンさんの売っているツィガーは、ハーブや香料などの特別な味はついていない。チーズといっても塩辛くもない。塩味をつけてホワイトソースの代わりに料理に使ったり、生クリームの代わりにデザートに添えることもある。そのままパンに付けてジャムと一緒に食べることが多いそうだ。

牛乳のツィガー。カッテージチーズのようでクセは全くない swissinfo.ch

 スイスに住んで15年。まだまだ知らないことがたくさんある。しばらくはツィガーと手作りジャムの朝食がマイブームになりそうだ。

ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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