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フェデラー「錦織にはいつも慎重」、錦織「フェデラーは若く強い」

右手首に痛みを感じていたが「(この不調は)自分のテニスに悪影響を及ぼさなかった」と語った錦織 Keystone

テニスコートだけが青い光の中に浮かび観客席は暗闇に沈んでいる。こんな儀式的な静寂さの中で繰り広げられるロジャー・フェデラーと錦織圭の戦いは、テニスというより緊張度の高い演劇のようだ。ロンドンで11日に行われたATPワールドツアー・ファイナルの2人の対戦は、フェデラーのストレート勝ちだった。しかし、翌日のスイス紙は錦織に対するフェデラーのポジティブなコメントも掲載し、多側面から分析する。

 「この大会は単なるテニス大会以上のもの。若い選手はその場・環境に慣れることを学ばなければならない、まさに『学びの場』だとフェデラーと錦織の試合を見て思う」と、日刊紙ラ・リベルテは書く。

  世界の強者8人が集まっているからだけではない。会場の独特の雰囲気があるからだとしてフェデラーの言葉を引用する。「とにかくこの大会では経験がものを言う。まず会場が特別だ。(1万7500人収容できる)アリーナは巨大で、観客は暗闇の中に沈み見えない。僕自身、毎回会場に入ると鳥肌が立つ。何か言葉では表現できない特別なものがある」

 11月のこの大会は、光と変わった音(時に不安感を引き起こす)が支配する。開会宣言はまるで開戦を告げる将校のそれのようにおごそかで、フェデラーはコートに入る時に白い煙の中から現れた。一言でいえば、一年に一度のこのロンドン大会は「スターウォーズ」と「スペース・マウンテン」が組み合わさった場所だと続ける。

 こんな会場で、しかもフェデラーと戦うのは「不可能なミッション」であり、フェデラーが負かしたラオニッチにこう言わせる。「ロジャーとの対戦では、観客は決まって彼の側につく。たとえ対戦相手がその国・地域のヒーローであってもだ」

 そして同紙は、(錦織やラオニッチのような)若いオオカミたちには「頑張って」と激励の言葉を送るしかない。熟練の相手に噛みつかれる前に、この容赦のない「強大なマシーン」のような会場が彼らを飲み込んでしまうからだと、間接的に錦織に同情のメッセージを送っている。

油断できない相手

 大会前にフェデラーは、錦織を油断できない相手と考え十分に作戦を練っていたようだ。日刊紙20Minが、試合前に次のようなフェデラーの言葉を引用しているからだ。「錦織がどのようにプレーするか、はっきりと分かっている。たくさん走らされると覚悟している」

 その作戦について、試合後にラ・リベルテ紙のインタビューでフェデラーはこう答えている。「錦織にはラオニッチのサーブ力はない。しかしラオニッチが打たない玉を打ち込んでくる。だから、錦織にはいつも慎重でなくてはならない。防御はもちろんだが、特に攻撃を仕掛ける必要がある。そのため、この試合では非常にアグレッシブな自分を錦織に対して見せた」

 だが一方で、錦織に同情を寄せ彼が十分に力を発揮しなかったとも日刊紙20Minで言う。「攻撃も防御もよくできていたし、サーブも変化に富んでいた。だが、錦織は最高の実力を発揮しなかった」

 「僕はうまく試合の流れに乗ることができたが、錦織は一度も流れをつかめずにいた。彼が実力を発揮すれば、打ち負かすのは難しい。今日なぜそれできなかったのか。身体上の問題か、それとも僕のせいなのか僕にはわからない」(日刊紙バーズラー・ツァイトゥング)

フェデラーのプレーはとても攻撃的

 一方の錦織は、今大会前にフェデラーと以前対戦した時のことを日刊紙20Minの中で、こう思い出している。「初めてフェデラーと対戦した時は、何もできなかった。あまりにフェデラーに対して尊敬の念があったからだ。勝とうとはまったく考えていなかった。ただ、自分が尊敬する相手と対戦しているという感じだった」

 今回、憧れのフェデラーとの戦いに多少慣れたであろう錦織だが、会場の雰囲気に圧倒され、また右手首の不調もあった。日刊紙ベルナー・ツァイトゥングは、そうした錦織に温かいまなざしを送る。「フェデラーのプレーが優れていたわけではなかった。バックハンドが決まらないことが多かった」。「錦織は、重要なポイントはすべてフェデラーに持っていかれ自分にはチャンスがなかったと話した。そして、右手首に痛みを感じていたが言い訳はせず、(この不調は)自分のテニスに悪影響を及ぼさなかったと語った」

 また、フェデラーを湛えた錦織の言葉も引用している。「(対戦で)彼を目の前にしても33歳という感じが全くしない。若く見えるし、驚嘆するようなプレーをする。年齢が問題になることはないと思う」。「フェデラーは常に強くなっている。彼との対戦は毎回難しい。かなり早めにボールを打ち、しょっちゅうネットすれすれで打ってくる。とても攻撃的なプレーだ」

 そのフェデラーだが、錦織を負かしたことで今季、マッチ70勝目を飾ることになる。だが、何回目の勝利かといった回数に興味はない。「大切なことは、重要な大会で勝つことであり、上位にランク付けされることだ」(ラ・リベルテ)

 そして、この重要な大会の中でも一番重要だとフェデラーが考えるATPワールドツアー・ファイナルで、ラオニッチと錦織を負かしたことを各紙は、「フェデラーは喜びに浸っているというより、むしろ安堵しているようだ」とコメントし、次のフェデラーの言葉を引用している。「ここまでは、考えていたよりずっとスムーズに行っている。調子はいい。完璧だ」

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