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高い線量下で暮らす子供たちに、避難をすすめる

飯館村で10月18日、海外から来たグリーンピースの1人が仲間の服の放射線量を測定 Greenpeace

福島市と飯館村で10月、放射線量を測定したグリーンピース・スイスのフロリアン・カッセーさんにその結果を聞いた。「日本の関係当局は、誰も住んでいない飯館村などの除染に力を入れるより、放射線量の高い福島市などの除染に力を入れ、同時に子どもや妊婦には避難をすすめるべきだ」と話す。

 放射線量測定の専門的な教育を受け、世界から集まったグリーンピースのメンバー15人は、日本のスタッフと一緒に福島市内でモニタリングポストが置かれている場所を40カ所選び測定した。モニタリングポストとは、文部科学省が空間放射線測定のために設置した可搬型の測定器。カッセーさんはこの第3回目の調査にスイスから参加した。

 「福島市内の40カ所のうち75%で、モニタリングポストから数歩離れるだけで公式の数値より高い値を記録した」と驚く。さらにモニタリングポストから25メートル離れた場所で、4.5倍から6倍もの高い値を記録したケースもあった。

 「関係当局は、モニタリングポストの周りだけを特別に除染し、実際とは異なる低い値を示すことで市民に安心感を与えているのではないか」と、カッセーさんは疑う。

 実は、日本のグリーンピースによれば、自分たちの測定器で測った市民達から「モニタリングポストの値が低い」との問い合わせが、文部科学省に5月以降、相次いで寄せられた。これを受け、(グリーンピースの発表も相まってか)、文部科学省は今月の5日、数値が約1割低く測定されていた事実を認め、「これは、検出器の横に設置したバッテリーが放射線の一部をさえぎっていたせいだ」として、バッテリーの位置を変える改修工事に取り掛かると発表した。

文部科学省の返答

 「モニタリングポストの周りだけを、意図的に特別除染したのではないかという疑いをどう思うか」と、文部科学省の原子力災害対策支援本部の担当者に聞いてみた。

 「モニタリングポストを置いた後に除染したことはあっても、除染を前もって行った後に、わざとそこを選んでモニタリングポストを置いたわけでは決してない。そのことはきちんと伝えてほしい」との答えが返ってきた。

 「設置後に除染が行われた場合は、市民からの除染の要求があったのでやった」とも話した。

 しかし、グリーンピースが測定した値は4.5倍から6倍も高い場合もある。たとえ改修工事後に値が1割上方修正されたとしても、それだけでは説明がつかない数字だ。これに対し同担当者は、「(市民やグリーンピースなど)が使うサーべイメーター(線量測定器)は『測っているものが違うために』、モニタリングポストより高い値が出る」と説明する。

ホットスポットも多い福島市内

 しかし、改修工事などて正確な値を出すことも大切だが、今の課題は「測定された場所はどこも例外なく年間線量1ミリシーベルト以上」の環境で、すでに1年半以上も生活している子供たちの健康問題であるはずだとカッセーさんは言う。

 「福島市内の除染は非常にゆっくりとしか進んでいない。市内には、モニタリングポストの公式の値より1000倍も高い値を示す、いわゆるホットスポットがたくさんある。例えば公園などだ」

 「ある日、子どもたちがそうしたホットスポットの一つである溝の方に走って行って、遊び始めたのにはショックを受けた」と語る。

正直に認める勇気

 では、こうした除染が遅々として進まない中、子どもたちは避難するしか方法はないのではとの質問に対し、カッセーさんは「グリーンピースは、福島市や郡山市など放射線量の高い地域に関しては避難をすすめるべきだと考えている」と言う。それでも何割かの市民が住み続ける以上、除染は必要。だが適切な除染が行われるまでの間だけでも避難することが望ましい。なぜなら、放射能のリスクにはこれ以下なら安全という「しきい値」がないからだ。

 カッセーさんは飯館村にも測定に行っており、そこで除染が行われている様子を見た。そしてこう指摘する。

 「この自治体の線量は高すぎる。ここが放射能の脅威から逃れられる日がいつか来るとは考えにくい。なぜなら、いくら除染しても周囲の丘から流れ込む水が絶えず放射能を運んでくるからだ。このことを正直に認める勇気を当局は持つべきだ」

ジュネーブで10月30日、31日、福島の人々の「健康への権利」を問題にした動きが国連人権理事会(UNHRC)であった。

スイス政府が支援して創設された国連人権理事会は2008年、メンバー国すべてに対し、その国がきちんと人権を擁護しているかを普遍的かつ平等に審査するメカニズム「普遍的定期審査 (Universal Periodic Review/UPR )」をスタートさせた。

同審査は4年半ごとに行われるため、日本は2008年の第1回の審査に次ぎ、今年2012年10月31日に被審査国として審査台に立った。

31日の審査に先立つ30日、郡山市の小中学生14人が年間1ミリシーベルト以下の場所で教育を受けられよう、郡山市に対し求めた裁判「ふくしま集団疎開裁判」の原告弁護団長の柳原敏夫弁護士と福島県双葉町の井戸川克隆町長が、ジュネーブの国連内で公聴会を開いた。柳原弁護士によれば、郡山市の学校226校のうちわずか5校だけが年間放射能線量1ミリシーベルト以下。20ミリシーベルトを超える学校もいくつかある。

一方、31日に各国から出された勧告でオーストリアが、年間の放射線量1ミリシーベルト以上の環境下で暮らす福島県内の人々の「健康への権利」を日本政府に対し、以下のように勧告した。

「福島の人々の命と健康の権利を守るために必要なあらゆる対策をたて、さらに、健康の人権に関する特別報告者が、被曝した市民、避難した市民、さらに市民団体と会って話ができるよう保障すること。以上を勧告する」

 

(以下、英語の原文)147.155. Take all necessary measures to protect the right to health and life of residents living in the area of Fukushima from radioactive hazards and ensure that the Special Rapporteur on the Right to Health can meet with affected and evacuated people and civil society groups (Austria)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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