スイスの視点を10言語で

アクティブ?ゆるい?インターナショナル!スイスのある小学校で

両親の出身国は、スイス・イタリア・クロアチア・デンマーク・スロバキア・フランス・トルコ・ベネズエラ・キューバ・インド・フィリピン・日本……と、実に12カ国 swissinfo.ch

「日本の小学校って、外国人が全然いないの!?」日本のニュースを見ていた娘が言った「日本人ばっかりじゃん!」。娘が通う現地校は、まるでインター校のように国際色豊かで、ほかにも日本と違う点が多々ある。6年生になった娘が卒業する前にと、取材をし、まとめてみた。

 バーゼル近郊に建つ「アム・マーバッハ小学校」は、児童数約200人と小規模ではあるが、ごく普通の公立小学校だ。

 始業時間は、朝8時。学校まで徒歩5分なので、娘は毎朝7時50分ごろ家を出て、お友達と学校へ向かう。

スイスの小学生が背負うのは、幅広の丈夫なリュックサック。高学年は普通のリュックやショルダーになる。ヘルメットをかぶっているのは、自転車やキックボードで来た子たち swissinfo.ch

 教室に入ると子どもたちは、まず先生のほうへ向かう。スイスでは起立!礼!という一斉の挨拶をせず、各自が先生に挨拶しに行く。握手しながら、先生と必ず目を合わせる。

 時間割には、8:27まで学活とある。歌を歌ったり、あった出来事を話したり、クラスの問題を話し合ったりする。が、先生によっては学活がない。担任はトメン先生だが、今日は副担任のクラフト先生が担当。5分ほど本日の予定について話した後、授業に入った。

 なぜ予定を話すかというと、子どもたちもそれまで何をするか知らないからだ。体育や図工などは決まっているが、基本教科などは先生が日ごとに割り振る。今日の時間割は1時間目が英語、4時間目がフランス語、それ以外は「X」となっていた。この「X」は2時間目に国語(ドイツ語)、3時間目は算数となった。

 教科書は、宿題やテスト勉強のために持ち帰る以外、いつも学校に置いてある。

机は先生を囲んでコの字型に並べられる。なぜか真ん中に島があり、島民は二人だけだ。居心地悪いのではと思いきや、実は人気の席なのだという swissinfo.ch

 実は先生は、学活から既に英語を話していた。授業に入り、この文章の間違いを見つけましょうと英語で言い、子どもたちも「Heには三人称のsをつける」などと英語で答えている。文法レベルは初級だが、そのわりに会話のレベルが高い。

 この州では5年生から英語が始まる。つまり英語は2年目なのだが、先生の話をほぼ理解している(娘曰く)のみならず、自分たちも英語で発言する。この授業中、3回ほど先生がドイツ語で説明することはあったし、子どもたちも時にはドイツ語だが、基本的にはすべて英語である。

 英語はドイツ語と同じ系統の言語だし、歌やドラマで覚えてしまうという!

クラスの半分は前に出てきて会話練習、残りは自習。しかし自習組は何もせずぼーっとしている子や、先生の目を盗んで消しゴムを投げる子がいるのは世界共通(もちろん真面目にやる子も!) swissinfo.ch

 驚いたのは授業中、教室の洗面台で自由に水が飲めることだ。勉強に飽きた子が立ち歩いているようにも見える(鉛筆を削りに行く子も多し)が、水を飲むのは体にいいと、むしろ奨励されているという。水道の横には、カラフルなマイカップがいっぱい並んでいる。水筒やペットボトルを机に置き、ひっきりなしに飲んでいる子さえいた!

 そして英語の教科書を開く。CD教材を聞いて、正しい答えを選ぶ。チョコレートの歴史についての文章だが、生活科でも先月同じテーマを扱っていた。多面的な複合学習かと思いきや、娘曰く、単なる偶然とのこと(要するにスイス人はチョコレートが好きなのだ!)。

 去年フランスから転入してきた子が、先生に当てられた。答えに詰まる彼に、先生は「ドイツ語で言ってもいいわよ」と言った後、「フランス語でも」と付け加えた。クラフト先生は、独英仏伊の4カ国語が話せるのである。

 途中、気分転換に、英語の手遊び歌をやった。

みんな前に出てきて二重の輪になり、ABC together, up together, down together…と歌いながら手をたたき、しゃがんで、パートナーが変わる swissinfo.ch

 本来なら5分のトイレ休憩があるが、そのまま授業を続けることもよくあるそうだ。ただし気分転換の活動は入るし、先生に断った上でトイレにも行ける。

 私語が増えてきたので、先生がみんなの注意を引く。静かにしなさいと怒鳴る代わりに、タン・タタタンと手をたたき、子どもたちがそのリズムを真似する。おしゃべりしていた子もそれに気づき、口を閉じる(しかし効果がない時は、先生の雷が落ちる!)。

静かにさせるには、黒板の横にかかっている風鈴も使われる。先生が風鈴を鳴らすと、その音を聞いた子から順におしゃべりをやめる(ちなみに先生はこんな風に、授業中よく机の上に座る……) swissinfo.ch

 子どもたちが静かになると、先生の話す言語がドイツ語に切り換わった。国語の授業の始まりだ。先生が黒板のページをめくると、そこにはドイツ語の動詞が書いてあった。

本のページのようにめくり、違う面を出して使える黒板。左側は英語、右がドイツ語と決まっていて、全部で6ページ。先生は事前に板書しておけるし、動詞カードを貼っておくこともできる swissinfo.ch

 今日は動詞からの派生語について学ぶ。先生が「動詞fahrenの派生語を考えてみましょう」と言うと、一斉に手が挙がった。たくさんの例が挙がり、先生が板書していく。

 一方、手を挙げない子も何人かいる。わが娘もその一人。実は先生に何度も、もっと手を挙げるように言われているが、本人曰く、間違えたら恥ずかしいと思って、勇気が出ないという。

 手を挙げて先生に当てられると、いつも「えーと、何だっけ?忘れちゃった!」と言う子もいるのに……!彼らは恥ずかしがらない。積極的な子は実に反応がいい。

 恥ずかしがる我が娘は、やはり半分日本人なのである。ただし手を挙げないと、授業に参加していないと見なされてしまうのだ。

 先生が話している間、ずっと手を挙げている子さえいる。先生はすぐには当てず、話し続けることも多い。区切りのいい所で「本当に大事な質問しかしないでね」と言ってから当てる。話を中断されたくないのだろう、先生に同情してしまったほど、とにかくよく手が挙がっていた。

 その後ペアを組んで、派生語を見つけるワークに取り組む。

どれだけ多くの派生語を見つけられるか競争しましょうと先生が言うと、みんなワーッ!と喜んだ。ストップウォッチがスタートし、必死になって考える子どもたち swissinfo.ch

 ペアを組む相手は、なんと好きな子を選べる。組みたい子の名前を言い、相手もそれに応じて、ペアが成立。けれど指名された子が拒否することもある。誰にも選んでもらえない子もいる。 

 選ぶ相手は毎回似たようなものだし、あぶれる子もたいてい決まっているのだが……この過酷なシステムは変わらないようである。

 10:05、休み時間。これはツニューニ・パウゼと呼ばれ、持ってきたスナックを食べる時間だ。スナックとは果物、クラッカー、サンドイッチなど。

 それがなんと、児童は教室に残ることが許されない。雨の日も雪の日も、校舎から外に出される。

スナックは座って食べるか、立ったまま、または遊びながら食べる。校庭にはいくつかの遊具と、ピンポン台が2台。ピンポン台の周囲には15人ほど群がっていて、順番に打つ。あとは鬼ごっこやサッカー、隠れんぼなど swissinfo.ch

 10:25、算数。先週のテストが返された。間違いの多かった問題を先生が説明する。

 教室の椅子は、なんと事務椅子だ。くるくる回る子、やたら低くしている子、背もたれを横にする子などいて落ち着かない。ガタガタ揺らしたり、片ひざを立てたり、両足を引き出しにつっ込んでいる子までいて……それを先生が注意することはなかった! 

 11:15、算数が終わり、フランス語の教室へと移動。

 フランス語は、シュヴァイツァー先生の担当。ここはフランス語専用の教室で、壁にはフランス語動詞の変化表が貼ってある。

フランス語の教室では、机の並べ方が違っていた swissinfo.ch

 文法をさらった後、教科書を開いて、探検家コロンブスについての文章を読む。彼らのフランス語の教科書というのが、「フランス語をドイツ語で説明している」のだ(当たり前だけど)!

 先生は始めの方こそフランス語で話し、子どもたちにもフランス語を要求していたが、やがてお互いドイツ語になってしまった。フランス語は4年目だが、歌やドラマで覚えることもなく、苦手な子が多いそうだ。見学していた私も授業を理解できず、正直つらかった……。

 12時、フランス語が終わった。先生との握手の際、例えばお昼前は「エン・グエッテ(楽しい食事を)」などの言葉を交わすことも。

 スイスの学校は給食がなく、児童は帰宅して昼食をとる。

午後の授業がある日は、またあらためて登校する。始業時間は、1:45。この日の午後は、学校内にイースターエッグを隠して、隠した場所を英語で書いて別のチームに探させる、というゲームをした swissinfo.ch

 最後におまけ。聞くところによると、家庭科がまた面白い。授業中に先生がリンゴをかじるしお茶もすする。教室には、ラジオがかかっているという!

 なんともゆるい学校だが、子どもたちの頭の中は、何か国語も飛び交っている。スイス人なら母国語はドイツ語の方言だから、学校で習う標準語は外国語のようなもの。そして娘を含め外国人は、家庭でドイツ語以外の言葉を話す子が多い。さらに英語やフランス語とは……彼らの苦労を再認識した1日だった。 

平川郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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